【小説】加藤君と婚活と私

こんばんは。

 

今日ね、親戚の叔母さんが家に泊まりに来るのでドキドキしてます。

 

さっき、彼に借りてたズートピアのCD返して来ました。

 

今日彼に渡さないと、彼はズートピアを見てもいないのに延滞料金をゲオに払わないといけなくなるので、一大事だったんです。

 

昨日の晩も、「ズートピア持った?持った?明日忘れたらあかんに!」と電話かかって来たので、これだけは今日は死守して持って行かねばと思っていました。

 

さて、話変わります。実は、ここのブログ「婚活」ってキーワード入れるとアクセスが数倍伸びるんです。

 

メルカリなどの転売ネタや、パートタイマーの控除額のネタや自虐系ネタも人気あるけど、婚活記事って本当に安定感ある人気だなと、しみじみ感じています。みんな、婚活女子好きなのね。

 

さて、そんな訳で今回は婚活を題材にいっちょ話を作ってみたいなと思いました。

 

ほんと、実にくだらない話なので暇な方のみお進み下さい。

 

「加藤君と婚活と私」

 

気づけば私ももう65歳になった。年金受給額は70歳。まだ、あと5年もあるじゃないの。

 

ううん。でも、まだ65歳。まだまだ私、人生を諦めちゃいけないわ。結婚だってしたいし、妊娠だってしたい。

 

生理は終わったけど、まだ私には希望がある。今は人工知能を使って人工妊娠も可能な時代になった。

 

私は、こんな事もあろうかと思って35歳の頃に卵子バンクに卵子を冷凍保管しているのだ。

 

もう私の母体は使えないけど、今は人工知能によって開発されたロボット母体によって、どんな年齢の女性でも子供を授かる事が可能になった。

 

ただし、いくら卵子を凍結できた所で、ここで精子バンクから精子を購入して体外授精なんてさせて、そんな形で子供なんてできた所で果たして幸せになれるのだろうか。

 

違う。私は、普通に旦那がいて、私がいて。そして、子供がいて。

そんな普通の暮らしができる家庭が欲しいだけなのだ。

 

婚活はまだ諦めちゃいけないわ。でも、婚活パーティーや街コンいっても、「年齢制限35歳まで」と書いてあるのが殆どなのよ。

 

そんな訳で、「これはもう年齢詐称するしかない」と思って、ドンキホーテでセーラー服を購入。

 

なけなしの貯金を切り崩して購入したセーラー服を、ドキドキしながら試着室で着る私。化粧品は流石にないので、マツキヨの化粧品コーナーのサンプルのみでメイクを完了。

 

やがて、気づけば、クスクス笑いながら本物の学生達が、携帯で私の写メをパシャパシャ撮っていた。こいつら若干ウザイと思ってたけど、どうもSNSに送ってたみたいね。

 

なんなのよ。みんなで私の事を笑いやがって!

覚えてらっしゃい!

今から、私は戦地(婚活)へ行くんだから!

 

しかし、婚活パーティー受付にて「あの、婆さんですよね?」と、即フルボッコされる。

「いや、女子高生です。」って言ったら、「じゃ、学生証見せてくれますか?」と言われた。

 

「学生証は無いんですよね。

ただですねぇ、気持ちだけは、いつだってセブンティーンなんですよ。」と言ったら、

 

「ま、まあ気持ちは大事ですよね。やっぱ病は気からと言いますし。婆さ・・いや、貴方にはいつまでも元気でいて欲しいですよ。でもねぇ。」とブツブツ言われたかと思えば、

 

気づけば警備員2人に連行され尋問される羽目になった。

 

ああ、なんて日なの。

 

私はただ、結婚して普通に幸せになりたいだけなのに。なんで、警備員に連行されて尋問されなきゃいけない訳?

 

どうしてなの・・どうして・・。

 

ふうとため息をついて、ボロアパートに帰る私。そして、いつものようにテレビをつける。

 

「今日のニュースです。今から、ノーベル文学賞を受賞したカトゥーン鉄男さんのインタビュー生中継が始まります!」

 

私は、草臥れた蜜柑の皮をペリペリとめくり、既に乾燥しきった蜜柑の実をかっぽじって何度も取ろうとした。

 

何度も、何度もほじくっても固まった実は乾燥しすぎて取り出す事が出来ない。

 

ねえ。どうして。なんで取れないの。私だけ。なんで何も掴めないのよ。

 

やがて、カトゥーン鉄男のインタビューが始まった。

 

「あの時、僕は人生で最大のチャンスに賭けました。

 

あの頃は、本当に貧乏で辛くて。それでも、妻や子供達が僕をずっと支えてくれていたんです。

 

だから、僕は頑張れたんだと思います。僕1人じゃない。僕に関わった全ての人に「ありがとう」って此処で伝えたいです。」

 

ぼんやりテレビのインタビューを見ながら、私は既にカビが繁殖した蜜柑の実をかっぽじり続けていた。

 

ねえ、カトゥーン鉄男・・いや、加藤君。「私に関わった全ての人へ」って、もしかしてそこに私は入ってるのかしら?

 

それとも、既に記憶の片隅から消されているのかしら。新しい幸せは、過去の失恋を消すっていうじゃない。

 

貴方には、今はもう幸せな家庭があって。私は65歳にもなって、まだまだ婚活して子供作ろうとしてて。でも、何にも掴めなかった。

 

いつも、貴方の後に出会った人を。貴方と全て比べては「加藤君より下はダメ」とか言って潰してただけ。

 

なんで、加藤君とばかり比べちゃうんだろう。わたし、きっと加藤君の事を本当に好きだったのかな。じゃあ、なんで私あの時振っちゃったんだろう。

 

貴方が、あの時あんな事さえ言わなければ、私はきっと貴方と一緒にいられたのに・・。

 

涙が頬を伝う。ああ、私何やってんだろ。60歳からの「シニア向けの結婚相談所」の会費もいつの頃からか払えなくなって。気づけば強制的に退会させられちゃった。

 

でも、あの結婚相談所さぁ。「介護してください」って男としか出会えなくて、「ああ、私ももうそんな歳か」ってセンチメンタルになっちゃって・・。

 

私だって、冬ソナみたいな恋をも一回して一花咲かせたいのに・・。

 

あのサービス、結婚相談所じゃなくて介護相談所の間違いだと思う。

 

私、これからどうなっちゃうんだろう。独り身で、誰が介護してくれるんだろ。もう貯金も底をつきたし。この年だと、仕事も無いしさ。

 

ずっと、ずっとこれから1人なのかな。死ぬまでずっと。こんな事を、私はあの時本当に望んでたのかな。ねえ、加藤君。

 

(30年前)

 

私は、35歳で仕事を辞めた。原因は社内恋愛していた彼との婚約破棄が原因だった。

 

彼と私は、大手箸専門企業の「チョプスティーク」に勤めていた普通のサラリーマンだった。

 

彼は加藤君といって、開発担当のエースだった。

「未来に向けた箸」をプロデュースし、加藤君が社員を全員集めてプレゼンをする。

 

特に、加藤君のプロデュースした箸「ふんにゃかふにゃか君」は我が社員達にも大人気だった。

 

ふんにゃかふにゃか君は、「子供の喉を突いたりする事があっても、危なくないように。」と、箸を柔らかいシリコン製にして作られた製品だった。

 

ただし、「ふんにゃかふにゃか君」には決定的な難点があった。

 

それは、箸を手で持つとグニャッと曲がって持ちにくくなるという点だった。「結局、コレ使えないんじゃないの?」「加藤、もしかして才能ないんじゃね?」と、言った声もチラホラある作品だった。

 

加藤君は、

 

「しまった!痛恨のミス!迂闊な事をしてしまった。

まさか、シリコン製の箸は持ちにくいだなんて!

そんなミスがあったなんて気付かなかった・・。」と、一時期は落ち込んでいた日もあった。

 

私は「大丈夫よ。加藤君、ピンチはチャンスよ。この逆境を乗り越える事で、貴方はきっと英雄になれるわ。」と言って、肩をポンと置いた。ああ、私っていい女。こんな時、いつもそう思う。

 

「ありがとう・・美玲・・。

やはり、俺は君がいないと生きていけないみたいだ・・。

 

そうだ。美玲!

俺、いい事思いついたぞ!

ふんにゃかふにゃか君の箸の先にミニスプーン付けたらいいかも?」

 

と言った加藤君を、思わず「はぁ?何言ってんのコイツ?」と突き飛ばす事も出来ず、

「う、うん。もうそれ、もはや箸じゃないけど良いんじゃないの?」といって受け入れるしかなかった。

 

加藤君は、いつも新しい事を考える時は目をキラキラと輝かせてたっけ。ほんと、少年のような心を持つ人だった。

 

あの目をみると、どんな馬鹿な事を言っても、私は応援しなきゃって思ってた。

 

私は、そんな煌びやかな仕事をしている加藤君と密かに交際している事を誇りに思っていた。

 

しかし、ある日加藤君はとんでもない事を私にカミングアウトしたのだ。

 

「なあ、美玲。俺、仕事辞めようと思うんだ。俺、WEBライターになりたいって思ってるんだけどいいかな?」

 

「は、はあ?ライター?なんでまた!今の仕事辞めたら、フリーランスで活動するって事なの?

そんなの大変に決まってるよ!絶対辞めた方がいいよ!

うちの会社、福利厚生凄くいいし!

貴方は開発担当の未来のエースなのに!」

 

「でも、俺。やっぱこの仕事向いてないと思うんだ。

 

こないだ考えた「ボイスレコーダー内蔵型の箸、おしゃべり君」も、「もはや、こんなの箸じゃないですよね。」って返品続出して、

 

責任を持って、俺が返品分を全て買収したんだけど300万円も損害でちゃって・・貯金パーになっちゃった。」

 

「えええ!あんた何やってんのよ!結婚資金どうすんのよ!

仕事も辞めて、貯金もなくて!

もはや、あんたに何の魅力があるの!

私はね、大手企業でエースとして働く貴方が好きだったの!

ごめんなさい!わたし、貴方とは別れるから!」

 

「ちょ、ちょっと待って!

僕の話を聞いてよ。

僕、やっぱ昔からずっと夢があったんだ。やはり、僕文章書くのが好きで。

今しかないって思ったから、チャレンジしたいんだ。

 

こんなワガママで申し訳ないけど、最初のうちは貧乏になっちゃうかもしれないけど・・。

 

それでも、コツコツやり続けていつか必ず成功したいんだ。

 

このロボット業界や人工知能が進む中で、僕は古き良き文化がなくならぬように文章を・・・」

 

って加藤君が言ってる最中に、加藤君の顔面をオラオラオラオラァァァ!!って、ジョジョ風にボコボコパンチで殴った私。

 

そして、余裕のジョジョ立ちをして「もう、あんたなんか用はないわ。私は、旦那の給料で専業主婦になりたいのよ。あと、子供を授かって、犬を飼うの。ごめんね。」と言い放った。

 

彼は、蹲りながら「こ、これ・・」と言って小さな箱をポッケから差し出した。

 

「なんとか、有り金全部叩いて買ったんだけど・・」

 

箱を開けると、そこにはキラキラ光る婚約指輪が。しかし、もう私にはただの石ころにしか見えなかった。「んなもん、イラネ!!」

 

加藤君は、か弱い声で「ごめんな・・美玲を幸せに俺はしてやりたかったんだけど、でも・・なんかゴメン・・。」といって、バタッと倒れた。

 

やがて、加藤君は救急車で運ばれた。その時に救急車を呼んだ後輩の高木さんと加藤君は交際し、その後結婚するようになったと風の便りで聞いた。

 

私は、開発担当の加藤君をぶん殴って病院送りにした女として好奇の目に晒され、会社にいずらくなって辞めることになった。

 

あれから、私は清掃業務、百均、電気屋、パン屋、花屋、ラブホ清掃員、ラブホ受付、テレクラ熟女クラブなどなど。様々な職を転々とした。

 

ああ、私何やってんだろ。

すべて自業自得の災いかもしれないけど。

 

でも、元はと言えば、加藤君がウェブライターになるとか現実逃避極まりない発言さえしなかったら。私は加藤君と結婚して。子供も授かって。パトラッシュみたいな犬を飼って。ランラララーン。あの口笛は何故ーってスキップしてたかもしれないのに。

 

私は、その後パートタイマーをしながら実家暮らし生活を続けていたが、ある日弟が結婚して実家に親と同居する事をキッカケに一人暮らしを始める事になった。生活は更にキツくなる。

 

パートタイマーの給料では家賃と水道、電気代だけで全部消えてしまう。国民年金も保険料も払わないといけないし、税金だって払わないといけない。

 

f:id:mikumayutan32:20170127211820j:image

(無料素材 ぱくたそより引用)

 

女ひとりで生きていく事なんて、もっと簡単だと思っていたのに。こんなに難しいなんて・・。

 

やがて、加藤君のネットコラムが人気になり、グーグルのトップページにも現れるようになった。

 

どうも、加藤君が私との失恋をネタにしたブログ「婚約者に殴られたカトゥーン鉄男の奇妙な冒険」が、日本ブログ村ランキング上位に上がるほどの人気になり、広告収入だけで月30万も稼いでいるそうなのだ。

 

他にも、カトゥーン鉄男は様々なコラムを連載し、雑誌にも載るようになっていた。雑誌では「いやー!サラリーマン時より、ぶっちゃけ稼いでますよー」って、マジかよ!

 

まさか、華麗なる転職だなんて・・・。嘘だ・・・。ああ、私馬鹿よね。お馬鹿さんよね。

 

最初は「加藤だからカトゥーンってw」と馬鹿にしてたが、私がラブホの清掃やったり熟女テレクラで小銭稼いでる事に、

 

こいつは部屋で菓子をムシャムシャ食べながら呑気に稼いでるんかいなと知るとイライラした。

 

それだけじゃない。

どうも、加藤君のブログはその後映画化もされ、私の役を有名女優の吉彦百合子が演じ、加藤君の役はKAT-TUNの誰かがやると聞いた。

 

ねえ、これ。私さ。

バックマージン貰っていいよね?

なんか、勝手に私の知らんとこでモデルにされて、映画とかドラマとかになって。

 

でも、私には一銭も入らなくて。私はぼろアパートで、うまい棒をかじってさ。

 

電気勿体無いから、暖房つけずに毛布にくるまって・・ああ。何やってんの私。

 

年が経つのは早いものだ。

気がつけば、あっと言う間に65歳。

 

でも、私はまだ諦めてないの。

うん。絶対に幸せになる。

 

死ぬ間際のたった1日前にね、幸せを実感できるくらいの些細な幸せでもいい。死ぬ前に「ああ、生きてて良かった」と思うのが夢なんだ。

 

とにかく、幸せになるんだ私!

 

だって、加藤君は夢を叶えたんだもの。大丈夫、私はどんな困難にも負けないわ。

 

腐った蜜柑を頬張りながら、思うの。私は、まだまだ腐った蜜柑なんかじゃないって。

 

ねえ、加藤君?

そうだよね?

私、まだまだ頑張れるよね。

 

「チャンスだと思った日、それが人生のチャンスだよ。」って、かつての貴方は言ってた。

 

貴方は、どんな時も諦めずに自分の信じる道を信じて突き進んでいく人だった。そんな貴方の後ろ姿が、私はただただ眩しかった。

 

今も、目をキラキラさせながら夢を嬉しそうに、語る貴方の横顔が脳裏に焼きついてる。

 

ブラウン管越しの加藤君は、「ありがとうございます・・」といって、涙を流し続けた。手には、妻の遺影を抱いていた。

 

加藤君、幸せになれて良かったね。

私も頑張るわ。だから、何処かで見守っててね。

 

あと、あの時ぶん殴って病院送りにしてごめんなさい。

 

 

おわり

 

 

追伸

ごめんなさい。ジョジョの奇妙な冒険ネタ書きたかっただけです。